「お尻が急に腫れてズキズキ痛む。熱もあるけれど、痔の薬で様子を見てよいのでしょうか?」
こんにちは、茅ヶ崎信愛クリニック院長の小島です。
肛門の腫れや痛みを「いつもの痔」と考え、市販薬で我慢してしまう方もいるかもしれません。しかし、腫れ・持続する強い痛み・発熱が重なるときは、肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)の可能性があります。膿がたまっている場合は、軟膏や抗菌薬だけでは十分に治らず、膿を外に出す処置が必要になることがあります。
この記事では、肛門周囲膿瘍と痔瘻(じろう)の違い、当日中の受診を考えたい症状、当院での診察と対応範囲を整理します。
肛門周囲膿瘍とは?
肛門の内側には、粘液を出す小さな腺があります。そこから細菌が入り、肛門の周りの組織に膿がたまった状態が肛門周囲膿瘍です。
代表的な症状は、肛門周囲の腫れ、赤み、ズキズキする痛みです。痛みは排便時だけに限らず、何もしていなくても続くことがあります。座る、歩く、排便すると痛みが強くなる場合もあります。発熱やだるさを伴うこともありますが、発熱がないからといって膿瘍を否定できるわけではありません。
膿瘍が深い場所にあると、外から腫れが見えにくいこともあります。「見た目に大きな変化がないから大丈夫」と自己判断しないことが大切です。
肛門周囲膿瘍と痔瘻の違い
肛門周囲膿瘍は、膿がたまった状態
肛門周囲膿瘍では、まず膿を外に出す治療が基本になります。自然に破れて膿が出ることもありますが、痛みが軽くなったから治ったとは限りません。膿が残っていたり、炎症が続いていたりする可能性があります。
痔瘻は、膿の通り道が残った状態
膿瘍が破れたり、切開して排膿したりした後、肛門の内側と皮膚の間に細い通り道が残ることがあります。これが痔瘻です。
痔瘻では、痛みが落ち着いた後も、肛門の周りにしこりがある、下着に膿や分泌物がつく、皮膚がふやける、かゆみが続くといった症状がみられることがあります。再び化膿すると、肛門周囲膿瘍のように強い痛みや発熱が出る場合もあります。
日本大腸肛門病学会のガイドラインでは、肛門周囲膿瘍の切開排膿後に痔瘻へ移行する割合は30数%程度とされています。全員が痔瘻になるわけではありませんが、膿が出て楽になった段階で終わりにせず、その後の経過を見る理由があります。
早めの受診が必要なサイン
次のような症状があれば、肛門科などの医療機関を早めに受診してください。
- 肛門の周囲が急に腫れてきた
- ズキズキする強い痛みがある
- 座る、歩く、排便することで痛みが強くなる
- 発熱、寒気、強いだるさがある
- 肛門の周囲から膿や血の混じった分泌物が出る
- 膿が出て痛みは軽くなったが、しこりや分泌物が残っている
特に、強い肛門痛と発熱が同時にある場合は、肛門周囲膿瘍を疑う重要なサインです。高熱を待つ必要はありません。症状が強い場合や急速に悪化している場合は、当日中の受診を検討してください。意識がぼんやりする、ぐったりする、急速に腫れが広がるなどの場合は、救急医療機関への相談が必要です。

診察では、痛みに配慮しながら広がりを確かめます
当院では、個室で横向きになり、タオルをかけたまま必要な範囲だけを確認します。いつから痛むか、発熱や排膿があるか、糖尿病などの持病、免疫を抑える薬や抗血栓薬の使用も伺います。視診・触診・指診などは、痛みの程度に合わせて無理のない範囲で進めます。
診察だけで分かりにくい深部の膿瘍や、複雑な痔瘻が疑われる場合は、超音波、CT、MRIなどの画像検査が必要になることがあります。ガイドラインでは、CTは深い膿瘍の診断、MRIは複雑痔瘻の広がりの評価に役立つとされています。
特別な受診準備や浣腸は必要ありません。服用中の薬が分かるお薬手帳をお持ちください。診察の流れが気になる方は、肛門科の診察は何をする?服装・体勢・肛門鏡の流れも参考にしてください。
膿瘍は「膿を出すこと」が治療の中心です
肛門周囲膿瘍と診断したときは、速やかに切開して排膿することが治療の原則です。浅い膿瘍では局所麻酔で対応できることがありますが、深い位置にある、範囲が広い、全身状態への影響がある場合は、より設備の整った医療機関での処置が必要です。
抗菌薬は、広い蜂窩織炎を伴う場合、糖尿病などの併存疾患がある場合、免疫が低下している場合などに用います。しかし、膿がたまった袋を薬だけで消すことは難しく、抗菌薬は排膿の代わりにはなりません。手元にある抗菌薬を自己判断で飲むことや、処方薬だけで受診を先延ばしにすることは避けてください。
痔瘻ができた場合は、通り道の位置や深さ、肛門括約筋との関係を確かめ、根治手術を検討します。肛門の機能を守る必要があるため、どの術式にも一律に当てはめるものではありません。
茅ヶ崎信愛クリニックでの対応
私が診察で重視するのは、「単なるいぼ痔の腫れか、膿を出す必要がある感染か」を早い段階で分けることです。肛門周囲膿瘍が疑われるときは、軟膏だけで長く様子を見るのではなく、腫れの場所と広がり、全身症状を確認して処置の必要性を判断します。
当院で対応できる状態では切開排膿を行い、深部の膿瘍や複雑な痔瘻、入院・根治手術が必要な場合は、対応できる医療機関へ紹介します。治療後の下痢や便秘の管理、糖尿病などの持病の管理は、かかりつけ医として継続して行えます。
肛門周囲膿瘍と痔瘻の詳しい説明は「あな痔(痔瘻)・肛門周囲膿瘍の症状と治療」にまとめています。
痛みが軽くなっても、しこりや排膿が残れば確認を
肛門周囲膿瘍は、早く膿を出すことで痛みや発熱の改善が期待できます。自然に膿が出て楽になった場合も、通り道が残っていないかを確かめる必要があります。腫れ・持続する強い痛み・発熱があるときは我慢せず、症状が落ち着いたあとも排膿やしこりが続くときはご相談ください。
参考情報
- 痔瘻(じろう,あな痔)ってなに?肛門周囲膿瘍ってなに?|日本大腸肛門病学会
- Japanese Practice Guidelines for Anal Disorders II. Anal fistula|日本大腸肛門病学会
- 肛門疾患〈痔核・痔瘻・裂肛〉・直腸脱診療ガイドライン 2020年版 改訂第2版|Mindsガイドラインライブラリ
監修 医学博士 小島正之