「トイレのたびに肛門が痛い」「便をしたあと、トイレットペーパーに少し血がつく」「こんなことで肛門外科を受診していいのかな……」
このような症状を誰にも相談できず、我慢している方は少なくありません。しかし、切れ痔(医学的には「裂肛」)は決して珍しい病気ではありません。
日本の肛門専門病院を受診した新患5,447人を調べた研究では、1,355人、つまり24.9%に裂肛が認められました。これは一般人口の「4人に1人」という意味ではありませんが、肛門外来では非常によく遭遇する病気であることが分かります。
「自分だけなのでは」と恥ずかしく思う必要はありません。今回は、切れ痔がなぜ起こるのか、どんな症状なら受診した方がよいのか、そして「痔だと思っていたら別の病気だった」ということを避けるために知っておきたいポイントを解説します。
切れ痔(裂肛)とは?
裂肛とは、肛門の出口付近の皮膚(肛門上皮)が裂けたり傷ついたりした状態です。
- 排便時に肛門が痛む
- 排便後もしばらく痛みが続く
- トイレットペーパーに鮮やかな赤い血がつく
- 便の表面に少量の血がつく
といった症状が典型的です。
「切れ痔」という名前から単なる小さな傷のように思われがちですが、繰り返して慢性化すると、痛みによる肛門周囲の筋肉の緊張や血流低下などが関係して傷が治りにくくなり、次の排便でまた裂けるという悪循環に入ることがあります。
「切れ痔で悩んでいるのは自分だけ」ではありません
肛門の症状は他人に相談しにくいため、実際の患者さんの数以上に「周りにはそんな人はいない」と感じやすい病気です。
国内の肛門専門病院の新患5,447人の解析では、内外痔核62.8%、裂肛24.9%、痔瘻6.5%(疾患の重複あり)でした。さらに裂肛患者の男女比は、男性47.6%、女性52.4%でした。つまり、特定の性別だけの病気ではありません。
海外の人口ベース研究でも裂肛の年間発症率は1,000人あたり約1.1人と報告され、25〜34歳では約1.8人でした。研究対象や医療制度が異なるため、この数字をそのまま日本人に当てはめることはできませんが、裂肛が特殊な病気ではないことを示すデータの一つです。
なぜ切れ痔になる?「硬い便」は重要なポイント
典型的なきっかけの一つが硬い便や便秘です。硬く太い便が肛門を通過するときに肛門上皮に強い力がかかり、傷ができます。
国内研究でも、便秘の人や排便が2〜3日に1回の人では裂肛が有意に多いことが報告されています。また海外研究では、慢性便秘が確認された割合は裂肛患者14.0%に対し、対照群3.6%でした。
これは「便秘なら必ず切れ痔になる」という意味ではありません。しかし、便通を整えることが裂肛の予防・治療を考えるうえで重要であることを示しています。
一方、頻回の排便や下痢などで肛門に繰り返し負担がかかる場合にも症状が起こることがあります。そのため治療では「傷に薬を塗る」だけでなく、その人の便の硬さや排便習慣まで確認することが大切です。
痛いから排便を我慢する――これが悪循環になることも
排便する → 痛い → 排便が怖い → 我慢する → 便が硬くなる → 次の排便でもっと痛い
という悪循環に陥ることがあります。「出さなければ傷が治る」と考えて排便を我慢することが、かえって次の排便をつらくする場合があります。便を必要以上に硬くしないこと、強くいきまないこと、規則的な排便習慣を整えることが重要です。
「血がついた=切れ痔」と自己判断しないでください
鮮血がトイレットペーパーにつけば、裂肛は代表的な原因の一つです。しかし、「肛門から血が出た=痔」ではありません。
出血は痔核でも起こりますし、大腸ポリープ、大腸がん、炎症性腸疾患など、大腸側の病気が原因になっていることもあります。
- 出血を繰り返す
- 血液が便に混じる
- 便通が以前と変わった
- 便が細くなった状態が続く
- 腹痛を伴う
- 貧血を指摘された
- 原因不明の体重減少がある
- 便潜血検査で陽性を指摘された
こうした場合は「痔があるから大丈夫」と決めつけず、必要に応じて大腸内視鏡検査などで大腸側に別の原因がないか確認します。
切れ痔はすぐ手術になるのでしょうか?
「肛門外科に行ったら手術を勧められるのでは?」と受診をためらう方もいます。しかし裂肛だからといって、すぐ手術になるわけではありません。
前述の国内研究では、裂肛1,355例のうち手術に移行した割合は8.8%でした。この研究では9割以上が手術に移行していません。
急性期の裂肛では、便通の調整、生活習慣の改善、外用薬などの保存的治療をまず検討します。一方、何度も繰り返して慢性化すると、肛門が狭くなったり、見張りいぼなどの慢性変化を伴ったりすることがあります。その場合には病態を確認したうえで、外科的治療を含めて治療方針を考えます。
どんなときに肛門外科を受診すればいい?
一度だけ軽く切れて、便通を整えることで速やかに改善することもあります。一方、「何週間も我慢してから受診する必要」はありません。
- 排便のたびに痛む
- 出血を繰り返す
- 痛みが強い
- 症状がなかなか改善しない
- 同じ場所が何度も切れる
- 肛門に腫れやしこりを感じる
- 発熱や強い持続痛を伴う
- 便潜血陽性を指摘されている
- 本当に痔なのか自分では判断できない
という場合は、一度診察を受けることをおすすめします。特に発熱を伴う強い肛門痛などでは、裂肛ではなく肛門周囲膿瘍など早めの処置を要する病気も鑑別に入ります。
「こんなことで受診していいのかな」と思わなくて大丈夫です
肛門の症状は、受診するまでの心理的なハードルが高い分野です。しかし実際には、肛門専門病院を受診した患者さんの約4人に1人に裂肛がみられたという国内データがあります。
「排便時に痛い」「紙に血がつく」「また切れた気がする」。こうした症状は肛門外科では日常的に診察する症状です。
そして大切なのは、単に「切れ痔ですね」と診断することだけではありません。なぜ繰り返しているのか、便通に問題はないか、慢性化していないか、ほかの肛門疾患ではないか、大腸側の検査が必要ではないかまで考えることが大切です。
茅ヶ崎信愛クリニックでは、肛門の痛みや出血、いぼ痔、切れ痔などのご相談に対応しています。また消化器内科として、症状や年齢、便潜血検査の結果などから必要と判断した場合には、大腸内視鏡検査まで含めてご相談いただけます。
「痔だと思うけれど、一度診てもらった方がいいかな」。その段階でご相談いただいて構いません。恥ずかしさから我慢するより、原因を確認して毎日の排便をつらい時間にしないことが治療の第一歩です。
参考文献・出典
- 日本大腸肛門病学会「肛門疾患(痔核・痔瘻・裂肛)・直腸脱診療ガイドライン2020年版 改訂第2版」
- 辻順行・家田浩男「肛門専門病院における新患5,447人の分析―特に3大肛門疾患と裂肛症例の分析―」日本大腸肛門病学会雑誌 2013;66:479-491.
- Mapel DW, et al. The epidemiology and treatment of anal fissures in a population-based cohort. BMC Gastroenterology. 2014;14:129.
監修 小島正之